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食べる力をサポートする
咀嚼開始食品「プロセスリード®

食事の摂取には、咀嚼(かむ)、食塊形成(まとめる)、えん下(飲み込む)までの連続したプロセスがあります。 咀嚼開始食品プロセスリードは、摂取時には固形物の食感を持ち、咀嚼すると飲み込みやすいペースト状になる物性に調整してあり、咀嚼・えん下機能の低下した方にも食べていただくことを考えた医療や介護の場のニーズに対応した食品です。えん下困難者用食品「エンゲリード」と咀嚼開始食品「プロセスリード」の開発にあたった研究者が、臨床栄養の領域における食形態調整の意義と、咀嚼開始食品という新たなカテゴリー創出に至った経緯、今後の可能性についてお話します。

「プロセスモデル」が製品開発のヒント

OS-1事業部 メディカルフーズ研究所 製剤研究室 主任研究員 安部和美

当社がメディカルフーズへの取り組みをスタートさせた1990年代後半、米国の学会で重要な発表がありました。食物を口に入れ、かんで飲み込むまでの一連の過程、いわゆる「プロセスモデル」が世界で初めて詳細に解き明かされたのです。

それまでの研究や臨床活動は、「咀嚼(かむ)」と「嚥下(飲み込む)」をそれぞれのモデルに分けて考えていました。ところが実際には、食物をかんでいる途中で、飲み込める状態になったものから先に喉へ送り込み、飲み込んでいること、また、そうしたことは複雑な舌の動きによって可能になっていることも分かったのです。

当時私たちは、将来、臨床栄養の領域で、輸液中心から経腸栄養、さらに経口摂取を前提とした栄養補給の考え方へとパラダイムシフトが起こると予想し、これに対応した食品の研究開発に取り組むようになりました。例えば脳血管疾患などの理由で咀嚼嚥下機能が低下してしまった患者さんに対して、どういった物性の食品ならかみやすく飲み込みやすく、しかも誤嚥(ごえん)のリスクに配慮できるかという観点から研究を始めたところでした。そんな私たちにとってプロセスモデルの概念は製品開発における重要なヒントになったのです。

咀嚼開始食という新カテゴリー

臨床栄養の領域で嚥下機能にフォーカスし、最初に製品化したのが2006年発売の「エンゲリード」です。嚥下開始食品というコンセプトで、かむことのできない患者さんでも飲み込みやすいゼリー状の物性に調整した製品で、早期に経口摂取を開始する提案をしています。エンゲリードは、消費者庁から「えん下困難者用食品 許可基準Ⅰ」の表示許可を取得し、医療機関や介護施設において嚥下困難な患者さんが経口摂取を開始する際に使われるようになりました。

開発の次のターゲットは咀嚼機能です。丸のみ(咀嚼不要)の次の段階は何だろうか。この観点から着目したのが、先に紹介したプロセスモデルです。食べる行為は、咀嚼(かむ)・食塊形成(まとめる)・嚥下(飲み込む)という連続したプロセスで成り立っています。このプロセスに沿って食品の物性が変化し喉に送り込まれます。そこで私たちは、丸のみの次のターゲットとして咀嚼機能に着目した食品の開発が必要であると考えました。

  1. ①最初は咀嚼が必要な硬さを有すること
  2. ②咀嚼によって飲み込みやすい食塊が形成されること
  3. ③嚥下するときにはペースト食と同じような状態になっていること

これらをコンセプトに開発したのが「プロセスリード」です。ゼリーやペースト食などの咀嚼が不要な食形態から、しっかりとした咀嚼が必要な食形態(きざみとろみ食など)の中間にあたる物性となる「咀嚼開始食品」という新たなカテゴリーを定義しました。プロセスリードについては、丸のみから咀嚼嚥下のプロセスにマッチした製品の一つと位置づけています。

「プロセスリード」の物性を見極める

プロセスリードは医薬品ではありませんが、医療や介護の場などで使っていただく食品として、物性と品質の作り込みに多くの時間を費やしてきました。

プロセスモデルについては、その後、国内でも研究が行われ、もっとも飲み込みにくい物性とは、個体と液体の混合物であることが分かりました。例えば、豆腐の入ったみそ汁を想像してください。口の中では、豆腐をかんでいる間に、みそ汁のつゆが先に喉へやってきます。嚥下困難者の場合は、ゼリーやペースト食がやっと飲み込める段階ですから、水分が先にやってくると対応できず気管に入り誤嚥してしまう可能性があります。

また、嚥下困難者には高齢者が多く、唾液が出にくい人もいれば、逆に唾液が多い人、舌の動きが緩慢でなかなか飲み込めない人もいます。口腔機能の差異に関わらず、咀嚼後、安心して飲み込める物性になる製品をつくることが私たちの目標でした。そこで発売前にこの物性で果たして良いのかを、物性研究や臨床研究を通して慎重に見極めていきました。

さらに食べる力を引き出すために

プロセスリードは2014年に発売しました。製剤検討が正式に始まったのは2009年ですが、1997年のプロセスモデルの学会発表から17年もかかってしまいました。その間に医療機関での食品に対する関心は高まり、臨床栄養における経口摂取の重要性を理解する医療従事者も増えてきました。

嚥下機能の評価や訓練の場面でエンゲリードを使用してきた患者さんが、咀嚼嚥下の練習を開始できる段階になって、最初にプロセスリードを食べるときは、丸のみよりも口腔を動かす必要性から、口が疲れて少し辛いと感じるかもしれません。しかしかんで食べる練習を続けていると、咀嚼に必要な運動(臼歯でかむ、舌を動かす、顎や頬を動かすなど)が、少しずつできるようになります。これらの協調運動ができれば、かんで食べる食形態へ進みやすくなります。かんで食べる食形態に上がり摂食機能が落ちる心配がなくなったらもうプロセスリードは必要ありません。

プロセスリードを役立てていただくために、まず医師にプロセスモデルなどの学術的なバックグラウンドと、咀嚼開始食品の使用シーンについて理解していただくところから私たちは取り組んでいます。最近では、患者さんの咀嚼嚥下機能のケアをすることで実際に栄養状態も良くなることや、もとの生活レベルに戻る可能性が高まることへの気づきも医療機関の中で生まれてきています。こうした変化を励みにして、さらに「食べる力」を引き出せるような製品の開発に今後も取り組んでいきます。