在宅医インタビュー:安里龍一先生
山あいの地域でも、生活に溶け込む医療で笑顔の未来を

安里龍一先生安里龍一先生

いろとりどりの診療所について

長野市篠ノ井にて、小児も含めた地域の人々が住み慣れた場所で笑顔あふれる生活ができるよう、24時間365日、在宅診療を行っています。
診療所の名前である「いろとりどり」には、それぞれの個性を尊重し、誰もがかがやきながら安心して暮らせる社会を作りたいという願いが込められています。

いろとりどりの診療所ウェブサイト:https://16-toridori.jp

在宅医療を志した背景

―『住み慣れた「いつもの場所」で暮らす』という当たり前の生活を守りたいという想いから、この診療所を立ち上げられたとのことですが、在宅医療を目指されたきっかけを、ぜひ教えてください。

僕は病院での勤務が長かったですが、最初は総合診療科として救急や病棟、外来などで医者をずっとしてきました。救急医療や入院を診ている中で、どうしても病院というところは病気を治すところになってきます。

どうしても病気が完全に治らなくなってきた人たちもいます。そういう人たちと向き合い、どういう風にすればこの人達が幸せになれるのかと考えたとき、医療を全力ですれば助かるのか?というと、そうじゃない人たちが多くいたということが、在宅医療を目指すきっかけとなりました。

診療所の特徴、診療アイテム

―いろとりどりの診療所での特徴的な取り組みを教えてください。

いろとりどりの診療所では、初回訪問時に家族写真を撮るようにしています。「家に帰ってきて良かったな。」という気持ちを残したいという想いがあります。ただ途中でどうしても在宅生活が嫌になるという人もでてきますので、家に帰ってきたばかりの時は「こんな顔で笑っていたんだな。」ということも含めて写真を見返せるように初診時、家族みんなで写真を撮るようにしています。

また、去年から研修医の受け入れをさせていただいています。 研修医の先生たちは若くて熱意も体力もあり、とても優秀な先生たちが多く、在宅医療で何を学んでもらうかを色々考えていく中で、患者さんとしゃべってもらう、やはりコミュニケーションの力を養ってほしいなと思いました。

そこで、ある程度診療同行についてもらったら、患者さん宅に行ってもらい、病気のことだけじゃなく、大切にしていることや自分がどんな風な生き方をしてきたかとか、そういう人生のことについて色々お話を聴いてきてください、とお願いしています。
そうすると、研修医のなかには、初めて高齢者としゃべる人もいて、ゆっくりしゃべるという経験がない人もいます。ある研修医の先生が「話をするってことは、人の話を聴くことですね。」と、そんなことを言ってくれた先生がいました。それは、本当にその通りだなと思いますし、今後も研修医の先生たちの活躍を祈っています。

―在宅診療の際に日頃持ち歩かれている物品やアイテムについて、ぜひ教えていただけますか。

多職種とのやりとりはバイタルリンクを使っており、紹介状やサマリの作成はGeminiを活用しています。診療で日頃持っていく物品は他の先生方と大きく変わりないと思いますが、車にはこれらのアイテムを入れて診療しています(図1)。

図1. 訪問診療車に入れている物品

在宅診療で大切な視点

―在宅医療で大切にされている視点を教えてください。

生活の中で大事なことは、やはり「生きていく」ということになると思います。つまり、食事をしたり排泄をしたり、そういった当たり前のことをすることだと思っています。それは僕たち医者が中心になると、どうしてもうまくいかなくなることが多いので、医療中心ではなく生活の視点をすごく大事にしております。生活が医療寄りになるのではなく、生活の中に溶け込めるような医療を目指しています。

ソーシャルモデルで見る事例

―ソーシャルモデルの視点から印象的だった事例について、ぜひ教えてください。

長野県の特徴として、山間部、山の中で暮らす人達もすごく多くいらっしゃいます。僕の訪問している地区で高齢者率60%を超えているようなところがあり、そういうところは訪問看護ステーションも入ることができない、車で3時間以上かかる地域です。さらに、ヘルパー事業所そのものが高齢化して閉所しているという背景もあり、どうしても家で過ごすことが難しくなってくる地域ではあります。

また、長野県では冬は寒さが厳しく雪が降りますので、冬の間は施設に入って、夏の間は家に帰ってくるような生活をされている方もいらっしゃいます。

長野県の冬の様子

そういう環境の中の対応で印象に残っている方を紹介します。108歳の方で、「どうしても家に帰りたい!」と言って春先に家に帰ってきてくれて、数か月娘さんの介護でずっと過ごしていただいていました。その中「どうしても家で娘さんの作るおでんが食べたい。」夏なのにおでんが食べたいと言って、おでんを召し上がっていたのが凄く印象的でした。嚥下障害も少しあったので、どうすればおでんが食べられるか等を一緒に考えながら対応したのも印象的なエピソードです。

他職種との連携、栄養介入のタイミングについて

―診療所に素晴らしいキッチンもありますが、栄養介入のタイミングや他職種との連携事例を教えてください。

栄養介入が必要だと思うタイミングは、患者さんが痩せてきたタイミング、そしてご飯が食べられなくなってきたタイミングだと思います。

特に、ごはんが食べられないということに関しては、介護する人、家族が悲しむという「喪失感」にも深く繋がりますので、早期の介入が必要かなと思っています。

当院では、非常勤の管理栄養士と協力しながら、そのような方に支援させていただいています。

いろとりどりの診療所の中のキッチン

ある方から「ムース食を家で娘さんが作ることができない、どう作ればよいか分からない。」と言われたことがあります。

病院での指導もあったようですが、家に専用の器具もなかったとのことで、管理栄養士に相談したら、既存製品やお弁当のタイプもあると提案してくれました。管理栄養士は、在宅医療では患者さんやご家族自身ができる範囲のことを如何に提案できるかを大事にしてくれています。

これから在宅医療を目指す方へ

―最後に、これから在宅医療を目指す方や、始めたばかりの先生方に向けて、メッセージをお願いいたします。

在宅医として思っていることをちょっとお話させてもらうと、僕も病気を診られるようになってから、次は人をみられるようになりたいなと思いました。
人をみられるようになったら、次は生活をみられるようになりたいなと思ったところです。
在宅ではそういった全てのところをみられるので、楽しんで在宅医療をやっていきたいなと思っています。生活のこととか、人のこととかになってくると、医学から離れることも多いと思いますので、たくさんの人に助けてもらいながら、診療を続けていってもらえたら嬉しいなと思います。


在宅インタビュー一覧に戻る

TOP