認知症と診断されたその日から
~つながらない1年3ヶ月を変える、文京区の認知症初期支援~

2025年5月31日

認知症と診断されたその日から

東京都文京区では、認知症の診断後支援事業である「認知症ともにパートナー事業」を推進しています。これは認知機能の低下で生活上のサポートが必要と判断された人が、適切な支援を受けながら、住み慣れた地域で自分らしく生活を続けるための取り組みです。そこで今回は、この事業に携わる行政、事務局、訪問看護ステーションの方々に、取り組みについて解説をしていただき、支援の実際や成功のポイントについて、ディスカッションをしていただきました。

文京区の「認知症ともにパートナー事業」とは

認知症初期から本人や家族と寄り添う、文京区の「認知症ともにパートナー事業」

宇都宮: 今回、文京区での取り組みについてお話を伺えることを楽しみにしていました。行政・事務局・訪問看護それぞれの視点から、「認知症ともにパートナー事業」を紹介いただき、展望も含めてみなさんとディスカッションしていきたいと思います。

まずは、文京区の認知症施策担当保健師である水越友香さんから、事業の具体的な内容や実績などについて、お話をお願いします。

水越: 文京区では、「認知症になっても人として尊重され、希望をもって自分らしく生きることができる文京区」を、目指す将来像として掲げています。その上で区としては、住民の皆様に認知症を身近な事として考えていただこうと、令和3年度からの認知症検診事業の立ち上げを計画していました。しかし検診をしても、その後の受け皿がない状態では支援が途絶え、切れ目のない適切な支援とはなりません。そこで、診断後のフォローが大切だということで、認知症の検診に先駆けて令和2年度から診断後支援として、「認知症ともにパートナー事業」(以下、ともにパートナー事業)を先行して開始しました。

事業の背景として認知症では多くの場合、患者さんご自身が気になる物忘れを感じてから受診するまで約9か月半、受診して認知症と診断されてから相談機関につながるまで1年以上の空白期間があります。
その結果、患者さんが受診や地域の相談機関につながることができずに認知症が進行し、問題が深刻化・複雑化してから顕在化するというケースが少なくありません。そこで診断直後から本人に寄り添い、切れ目のない支援を提供する仕組みとして「ともにパートナー事業」を立ち上げました。

事業対象は、医師から「認知機能低下により生活上の支援が必要」と判断された、介護保険制度のサービスを利用していない文京区民です。支援方法は、区内にある訪問看護ステーションの看護師による最長6ヶ月間の伴走型支援により、医療や生活の課題をアセスメントし、適切な地域の社会資源につなげるというものです。具体的な支援内容は対象者によってさまざまですが、訪問や電話による精神的支援や日常生活支援、医療機関への受診同行、社会資源の情報提供や手続き支援、医療機関や地域包括支援センター等との連携などが挙げられます。なお、支援において対象者の費用負担はなく、訪問看護ステーションには、行政から実績に応じた委託料をお支払いしています。

事業の流れは、まず区内の協力医療機関等で医師から対象者に事業を説明し、希望する対象者に申込書の記入を案内します。その後、協力医療機関から訪問看護ステーション側事務局へ対象者の情報を共有し、事務局が対象者を支援する訪問看護ステーションを決定。おおむね1週間以内に担当看護師から本人や家族宛てに連絡を行い、支援を開始します。

この事業のポイントが3点あります。

1つ目は、医療機関が支援の入り口であること。
もの忘れなどの不安を相談する最初の窓口は、多くの場合かかりつけ医であり、信頼できる医師からの紹介ということで、安心して支援につながりやすくなります。

2つ目は、訪問看護師による柔軟できめ細やかな支援が可能なこと。
地域をよく知る看護師が、医療的視点を持ちながら本人や家族の状況に応じた支援を行い、医療・地域資源との橋渡しを担います。訪問回数や支援内容に制限がないのも特徴です。

3つ目は、支援につながりにくい人にも届く仕組みであること。
申込書の記入だけで支援が始まり、事務局が調整を行うため、本人や家族は看護師からの連絡を待つだけで支援を受けられます。

「ともにパートナー事業」は令和2年度から始まり、現在6年目になりました。昨年度は新規対応事例22件、受託訪問看護ステーション17ヶ所、協力医療機関数は64ヶ所となりました。本事業によって訪問看護師が最大6ヶ月間伴走することで、本人や家族が安心して関われる地域の支援者が明確となり、症状に応じた適切な支援の見通しを立てることができます。その結果、本人や家族の心理的な不安や負担が軽減され、疾患受容にもつながります。また、関係を築いた訪問看護師を起点に必要な社会資源や相談先につなげることで、支援の輪が拡大していくという効果もあります。

その上で自治体保健師の役割を改めて考えると、地域の多様な社会資源を俯瞰的に捉えてつなぎ、それぞれの連携の推進を図っていくこと。また、事業運営の中で見えてくる課題を把握し、改善につなげていくこと、さらに事業の効果や意義を地域に発信し、関係機関の理解と協力を得ながらより良い活用を促していくことも大切な役割だと考えています。

認知症初期支援での看護師の役割

医療機関、訪問看護ステーション、認知症の人と家族を結ぶ、マッチングを中心とした「入り口支援」

宇都宮: 続いては「ともにパートナー事業」において、訪問看護ステーション側の事務局となっている訪問看護ステーションけせらの統括所長・阿部智子さんから、お話をお願いします。

阿部:「 ともにパートナー事業」について、私たちは事業の立ち上げ前から行政側の保健師さんより相談をいただき、実施後もそのまま事務局として関わってきました。この事業は、訪問看護師による最長6ヶ月の「伴走型支援」が、大きな特徴であると考えています。地域で暮らす人たちのなかには、「自分はまだ介護保険を受ける状態ではない」と考え、制度の利用に抵抗感を示す人も少なくありません。あるいは要介護認定を受けても、それが支援に結び付かないことがあります。それが先ほど水越さんからご指摘のあった、「受診や地域の相談機関につながるまで、空白期間がある」という問題として顕在化しているように思います。

これに対して「ともにパートナー事業」は行政の事業であり、本人や家族にとっては普段から受診しているかかりつけの医師が支援の入り口になっていることが、事業の信頼や支援の受容にむすびついています。また本事業は、介護保険によるサービスではありませんので、訪問時間や内容の制限がありません。このため、支援を受ける人や家族のペースに合わせた支援ができます。さらに支援期間は最大6ヶ月ですから、ゆっくりとアプローチしながら、その人の気持ちの変化を待ちつつ、最適なタイミングで地域の社会資源につなげることができるのです。このように時間をかけながら、その人の持っている力を引き出しつつ関われることも、伴走型支援の良さだといえるでしょう。

一方で本事業に対しては、事業開始前の段階で他職種から、「なぜ、(主体として活動するのが)訪問看護師なのか」という声も挙がりました。そこで訪問看護師だからこそできることを考えると、本人を理解した上で観察しアセスメントすることが得意であること。また、地域を熟知した個別支援ができることや、医療職である看護師が訪問することによる安心感もあるでしょう。さらに、看護師が訪問することで途切れない医療提供ができ、本人だけでなく、親が認知症であることを受け入れきれない家族も含めて支援できる点でも、訪問看護師への期待は大きいのではないかと考えました。

事業上の立て付けとしては、一般社団法人東京都訪問看護ステーション協会が委託事業として文京区から依頼を受けるという形で、私たちの事業所と在宅看護センター本郷のふたつの事業所が、事務局としての実務を行っています。事務局の役割は、協力医療機関の医師から連絡を受けて対象者の情報を共有し、その人を担当する訪問看護ステーションを決定する、「入り口支援」が中心となります。

対象者と担当する訪問看護ステーションのマッチングについては、各訪問看護ステーションの稼働状況や対象者の自宅とステーションとの地理的な関係はもちろん、各々の協力医療機関や訪問看護ステーションの経験、事業に対する理解度なども勘案しなければなりません。たとえば、初めて対象者の連絡をくれた医療機関からのケースでは、すでに「ともにパートナー事業」での訪問を何度も経験しているステーションをマッチングするといった配慮も重要です。マッチング後は、協力医療機関からの情報を訪問看護ステーションに伝え、対象者やその家族に対しても、どこの訪問看護ステーションの誰がいつ訪問するのかを伝え、追って担当する訪問看護師から連絡があることをお知らせします。

看護師とはいえ、認知症ケアが得意な訪問看護師ばかりではありません。この施策をより効果的なものにするためにも、認知症のケアを得意とする訪問看護師が、さらに増えなければなりません。また私自身も、いずれは認知症になるかもしれませんので、明るく認知症に付き合っていきたいですし、それを見守り受け入れてくれる優しい地域であってほしいと思います。

その人がその人らしく、それでよいと思えること。 その思いを地域で支え合う仕組みに、決まりはない!

宇都宮: それでは、在宅看護センター本郷の管理者である直江あやこさんには、「ともにパートナー事業」での、訪問の実際について伺いたいと思います。

直江:「 ともにパートナー事業」での対象者への支援は、協力医療機関である医師からの紹介で始まりますが、介入する内容に関して医師からの指示書はありません。また、本事業は介護保険によるものではありませんのでケアマネジャーは関わっておらず、ケアプランもありません。

支援では、まず事務局から対象者の名前、住所・連絡先、紹介医療機関の主治医名が書いてあるだけの簡単な申込書が送られてきます。その上で事務局から連絡があり、これを受けて、紹介医療機関の主治医にご挨拶をし、対象者に関する情報収集もします。また、この段階で該当するエリアの地域包括支援センターに支援スタートの報告をします。支援期間の間は、毎月事務局に報告書を提出して、これが区にも共有されます。

実際の支援では、初回訪問すらままならないケースも少なくありません。ご本人が申し込んだ覚えがないとか、誰の許可を得て電話をしてきたんだと怒られたり。申し込みはしたけれど自宅に看護師が来るとは聞いていないとか、初回訪問でご挨拶をしたものの「困っていることはないから、もう来なくていい」と、2回目以降の訪問の約束ができないこともあります。

事業開始当初は要支援程度の軽度認知症の方を想定していたので、2週間に1回の訪問スケジュールを組んでいたのですが、現在は週1回の訪問スケジュールを基本とするようにしています。訪問時間も原則1時間で設定していますが、実際には本人のお話が長時間になったり、逆に顔だけ見に行って「あとはまた、何かあった時に来てもいいかしら」と、つなぎの会話だけで帰ってくることもあります。

「ともにパートナー事業」における訪問で大切なことは、介護保険による訪問看護のように、ケアプランに基づいて限られた時間のなかで看護師がケアを提供するのではなく、対象者を適切な地域の社会資源につないでいくことです。このため訪問については、週に1回でもよいし、困難事例であれば毎日行ってもかまいません。その上で、行政をはじめ地域包括支援センターや主治医と連携をとりながら支援をしていきます。

事業を通じてとても重要だと感じているのが、地域包括支援センターや主治医なども参加する勉強会や講習会です。なかでも、困難事例や好事例の事例検討グループワークは、訪問看護師たちの悩みの解決の場や励みになるだけでなく、グループワークを通じての多職種とのつながりが生まれる機会にもなっています。また本人・家族からは、「ともにパートナー事業」で訪問看護師が来ることで、本人だけでなく家族の支援もできることから、「来てもらえて良かった」という声を多くいただています。

 私自身は、「ともにパートナー事業」に携わるなかで、認知症の支援については、その人がその人らしく、それでよいと思えることが大切であり、それを地域で支え合う仕組みには決まりはないのだということに、気づくことができました。

認知症支援の成果と実績

行政と地域の訪問看護ステーションとの信頼関係が、 認知症支援の成果と実績につながった

宇都宮:「 ともにパートナー事業」は認知症の初期集中支援だと思うのですが、実際に対象となる人は認知症の初期段階の方だけでしょうか。あるいは、かなり症状が進んでいる人もいるのですか。

水越: 対象者には、かなり認知機能が低下した方もいらっしゃいます。例えば、ご夫婦で二人ともかなり認知機能が低下しており、セルフネグレクト状態で夫婦ともに支援対象になるという事例もありました。また、地域包括支援センターでも介入が難しいケースが、主治医とだけは唯一信頼関係が築けており、そこから「ともにパートナー事業」につながって、支援の糸口が見えたというケースも少なくありません。

宇都宮: ここまで皆さんのお話を伺っていて、認知症という苦悩を抱えた人に対して、その人を真ん中に置きながら、しかも肉親の認知症を受け入れられない家族の辛さも含め、行政の保健師と地域の医療機関、訪問看護ステーション、地域包括支援センターなどの介護事業所が、文京区では「ともにパートナー事業」という取り組みを通じてつながっていることに、とても感動しています。

阿部: ほんとうに、うまくつながっていると思います。「ともにパートナー事業」については、施策担当である行政の保健師さんが、地域で活動する訪問看護師に対する信頼感を持ってくれていたからこそ、こうした実績と成果を上げられたのだと思うのです。また、行政と私たち事務局が事前にいろいろなことを話し合うことができ、個別のケースについても報告書を共有し合い、勉強会や講習会を積み重ねながら運営をしてこられたことが、とても良かったですね。

直江: でも最初は、事務局も本当にたいへんでしたよね。特に対象者と訪問看護ステーションとのマッチングについては、最初は何もない所からのスタートでしたので、何かあるたびに調整作業がたいへんで…。報告書ひとつとっても、一般的な訪問看護であれば計画書と報告書がセットですが、「ともにパートナー事業」は報告書だけなので、報告書のなかに計画に関わるような文章も入れてほしいなど、手探りで形を作っていきました。

宇都宮: 事業を通じて、訪問看護師として認知症の人との関わりについて感じていることはありますか。

直江: 最初は拒否的であっても、訪問看護師が介入することで少しでも変化があれば、「来てもらって良かった」ということになります。きっかけがひとつあるだけで、まったく変わったりするのです。その結果、「ともにパートナー事業」での介入期間が終わった後も、介護保険を申請して、そのまま訪問看護につながるケースもありました。

水越: 関わり方は対象となる方の状況によって、本当にさまざまです。初期の認知症の方で自立できている人なら、疾患受容や精神的な支援も含めて訪問看護師さんが丁寧に関わり、本人やご家族が安心して暮らしを続けていくために何が必要かを一緒に考えながら、必要な社会資源につないでくださっています。一方、困難化しているケースであれば、地域包括支援センターの方にも一緒に訪問していただくなど、関係機関で連携しながら介入しています。時には、拒否的な反応や、感情的な言葉を受けることもありますが、訪問看護師の皆さんは相手の立場に寄り添いながら、本当に熱心に対応してくださっていま
す。

各登壇者のメッセージ

訪問看護師による「伴走型支援」を、認知症支援のモデルケースに!

宇都宮: それでは最後に、みなさんからのメッセージをお願いします。

水越: 私は行政の立場として、現場のみなさんの声を何より大事にしていきたいと思っています。制度や事業には、どうしても予算やマンパワーといった制約がありますが、現場の実態や課題を丁寧にキャッチし、それに合った制度へと柔軟に見直していくことが大切だと考えています。あわせて、地域での動きや他の施策・社会資源との連動も意識しながら、より文京区の実態に即した、実効性のある仕組みをみなさんと一緒に築いていきたいです。

阿部:「ともにパートナー事業」については、東京都訪問看護ステーション協会のなかでも紹介させていただき、他の区にある訪問看護ステーションからも、ぜひ同様の取り組みをしてみたいという声が挙がっています。ただし予算の問題などで、なかなか難しいところもあるようです。いずれにしても認知症に対する支援や介入は、これから一層求められるものです。だからこそ地域のなかでできた、認知症に悩んでいる人と家族、訪問看護師と多職種との“縁”を大切に、これからも事業や勉強会等を通し、良い形でつながっていきたいですね。

直江: 細々とやってきた「ともにパートナー事業」ですが、こうして取り上げていただき、お話をさせていただく機会をいただいて光栄です。今回、事業に取り組み始めた頃からの資料などを改めて見直して、これからも本事業のような支援と介入が続けられれば良いなと思いました。

宇都宮: 文京区の「ともにパートナー事業」は、準備の段階から行政と地域の訪問看護ステーションがしっかりと話し合い、将来を見据えながら始めた結果が今の実績と成果につながっていることがよく分かりました。なかでも本事業における「伴走型支援」は、地域における認知症の初期集中支援のモデルケースとして、たいへん参考になると思います。今回は長い時間、みなさんありがとうございました。

文京区 (福祉部高齢福祉課)

住  所:東京都文京区春日1丁目16番地21号 文京シビックセンター 9階南側
活動内容:文京区福祉部高齢福祉課は、地域包括ケアの一環として認知症施策に取り組んでいる。認知症の早期発見・早期対応をはじめ、地域における支援体制の整備や多職種連携の推進を図り、本人や家族が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるよう、「認知症になっても安心して暮らせるまち」の実現を目指している。
https://www.city.bunkyo.lg.jp/b017/p003331/index.html (2025年7月現在)

訪問看護ステーションけせら

住  所:東京都文京区本郷3丁目15番地2号 本郷二村ビル2階
活動内容:小児から高齢者まで幅広い利用者に対応する訪問看護ステーション。難病や精神疾患、医療的ケア児、ターミナル期などに対応し、「その人らしい暮らし」を大切にしたケアを提供している。24時間対応の体制に加え、大学病院との連携やスタッフ教育にも力を入れ、専門性と地域連携を両立。自宅で安心して暮らせるよう、日々利用者とご家族に寄り添い、地域包括ケアを担っている。
https://houkankesera.net/ (2025年7月現在)

在宅看護センター本郷

住  所:東京都文京区本郷4丁目7番地12号101
活動内容:「病気ではなく、その人の人生を看る」を理念に、日々の暮らしやご家族の想いにも寄り添うケアを提供する。また、訪問スタッフは文京区医師会推奨の多職種連携ツール「MCS(メディカル・ケア・ステーション)」を携行し、訪問状況をリアルタイムで主治医やケアマネジャーと共有。24時間365日対応の万全な連携体制で、住み慣れた場所でその人らしく穏やかな暮らしを支えている。
https://home-carenurse.com/ (2025年7月現在)              

制作:メディバンクス株式会社

ETD2625H01

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