次世代の介護を考える
―生産性向上もテクノロジー化も利用者のために

2026年3月19日実施

次世代の介護を考える  ――生産性向上もテクノロジー化も利用者のために

わが国の介護はいまや世界に誇るレベルのサービスですが、取り巻く状況は厳しさを増しています。介護を次世代にアップデートするために、何が必要か。最前線の4人が語り合いました。

人手不足の深刻化と利用者の増加

石本:本日のテーマは「次世代の介護を考える」。生産年齢人口の減少と高齢者人口の増加によって、介護現場では人手不足の深刻化と利用者の増加という事態に直面しています。そのソリューションとして “介護の生産性向上” が叫ばれ、1つの方法論としてテクノロジー導入が挙げられます。

介護の生産性向上とは、間接業務を省力化して直接業務(ケア)に充てる時間を増やすこととされます。その実現のために以下が挙げられます。

従来型の方法論は限界を迎えており、未来を見据えた次世代型の介護をどう考えればよいか、お三方にお話しいただきます。まず内田正剛さんから、国の方向性や業界全体の動向などを中心にお話しいただきます。

さらなるランクアップを目指す──介護の生産性向上

内田:私は2023(令和5)・24年度、厚労省老健局で、福祉用具住宅改修指導官として介護ロボット開発普及推進室室長補佐を務めました。本日はその経験を中心にお話しします。

老健局は「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」を作成しています。ガイドラインでは、生産性向上の具体的な取り組みとして下記の7項目を挙げ、「②業務の明確化と役割分担」でテクノロジーの活用を推奨しています。といっても生産性向上に必要なのはテクノロジーだけではなく、まず「①職場環境の整備」(いわゆる5S)から始め、「③手順書の作成」「④記録・報告様式の工夫」も含まれます。

「⑦理念・行動指針の徹底」も、実はかなり重要です。こういう取り組みがなぜ必要なのか、なぜやり続けなければならないのか。新しい取り組みや機器を導入しながら、必ずこの問いに立ち返ることが重要と思います。

厚生労働省老健局「施設・事業所向け手引き より良い職場・サービスのために今日からできること (業務改善の手引き)」パイロット事業令和2年度版より

ガイドラインでは、これら7項目を進める手順も紹介しています。まずテクノロジー導入ありきではなく、改善活動の準備→課題の見える化→実行計画作成→改善活動の実施→その振り返り→実行計画の修正、というプロセスを提示し、PDCA サイクルを回していくことを提案しているのです。

テクノロジーを導入すれば介護のオペレーションは変わります。たとえば見守りカメラを導入すれば訪室の優先順位がつけやすくなり、無駄な訪室も防げます。今後は、テクノロジーが集めた情報をいかに分析し、直接業務のケアにどう生かすか、という流れができていくのではないでしょうか。業務プロセスや役割分担などは変わるかもしれませんが、本質的な部分は変わらないと思っています。

国は2023年から「介護職員の働きやすい職場環境づくり 内閣総理大臣表彰及び厚生労働大臣表彰」 を実施しています。生産性向上や職場環境改善に取り組んだ事業所を表彰し、ホームページ上に事例等もアップしていますので、ぜひ閲覧してみてください。

石本:生産性向上という言葉に対して、業界には拒否反応が一定ありました。モノを作る仕事じゃないんだから、生産性なんてなじまない、という声です。そういう声に対して、どう説明されましたか。

内田:確かに批判の声がありました。これに対し個人的に思うのは、代わる言葉がないことです。業務改善とか効率化というと、まるで今のやり方が悪いようです。決してそうではなく、社会情勢が大きく変わってきたから、変えられることは変えていかなきゃいけないわけで、業務改善・効率化っていう表現はフィットしません。介護の生産性向上という言葉には、今もやっていることをさらにランクアップしていく、みたいな意味合いが込められているのではないでしょうか。

石本:なるほど。業務改善しなさいと言われるとネガティブに捉える人も確かにいますね。

https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-hyosyo-top.html

「辞める」から「紙には戻れない」に──訪問介護のテクノロジー化

石本:次に田尻亨さんから、在宅のお立場でお話しいただきましょう。

田尻:私ども訪問介護は在宅ケアの最前線と最後の砦を担っている、と自負しております。しかし、いろいろな課題に直面しています。最大の課題は人材不足ですけども、2024年度の報酬改定では訪問介護の基本報酬が約2% のマイナス改定となり、事業所の閉鎖や廃業が増えています。

もともと訪問介護の報酬は施設と異なり出来高で、「1 回あたりいくら」を積み重ねる細切れの算定構造です。利用者が入院すると報酬はゼロとなるなど不安定で、時給の非常勤という勤務形態に依存せざるを得ない構造です。介護保険が始まった2000年頃は、夫の扶養内で働きたい女性が多かったと思いますが、今は女性も正規雇用でしっかり働くライフスタイルが定着しています。だから若い人には選ばれにくく、不安定な雇用が敬遠されているのでは、と分析しています。

最近は併設型事業所が増えています。サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームに併設され、ヘルパーはその施設だけを訪問します。利用者宅への移動時間を効率化させたスタイルで、批判もありますが、併設型そのものが悪いのではありません。訪問介護の効率化を進めるためには、ある程度の集住は避けられないのです。

訪問介護に人を集めるためにも、下図に示すようにデジタルを活用して好循環を生み出さないといけません。大前提は、介護福祉士なら当たり前ですが、介護過程を展開することと高い倫理感を持つことです。それはケアの質向上や仕事のやりがいをもたらします。

訪問介護事業所でも、デジタルを活用することは増えてきました。さまざまなソフトが普及し、記録や請求は効率的に行えます。単独で訪問するヘルパーが仲間とやりとりするための、コミュニケーションアプリも役立ちます。

訪問介護は基本的にひとりで訪問し、利用者の居室で提供されるので、外部の目に触れにくい性質があります。訪問介護サービスを世の中にオープンにすること、この仕事の魅力を積極的に発信することも重要です。外国人の方をはじめとする多様な人材に対応していくことも、ケアの質向上には欠かせません。こういった好循環をつくることが、我々に今求められているのではないでしょうか。

私どもの法人(熊本市社会福祉事業団)では「訪問介護の手引き」を作成し、契約時に活用しています。利用者に訪問介護とは何かを正しく理解してもらうためです。手引きでは、「ホームヘルパーは家政婦さんとは違う」「できないことも意外に多い」ということを丁寧に解説し、併せてセクハラやカスハラについてもサービス提供責任者がサービス開始前に必ず説明します。

石本:介護業界でも特に訪問介護は、職員の年齢が比較的高い領域ですね。端末やアプリの導入に関するご苦労や工夫をお聞かせいただけますか。

田尻:年配の職員から「私はデジタル機器に対応できないから退職します」という声がたくさん上がりました。そういう事業所は多いと思います。でも私どもでは、デジタル化が理由の離職者はひとりも出していません。

まずは、何のためにやるのか、をしっかり理解してもらいました。業務効率化のためにやります、と言ってもダメなんですよね。皆さん利用者のために仕事をしているわけだから、「利用者との会話を増やしたいですよね」とか、「サービス提供責任者(サ責)にもすぐ情報共有されて、利用者の在宅生活を伸ばせると思うんです」というアプローチをしました。

すると「それならチャレンジしてみようかな」となり、使い方を教えると「これはいいね」と変わりました。教える側はとても大変でしたが、辞めると言われても諦めず、進めていくことです。導入して半年もすると、「こんなに楽になると思わなかった」「もう紙には戻れないよ」と皆さんおっしゃるんです。

石本:デジタル化に抵抗していた人たちが、その良さを知った途端、すっかりはまってしまった。教える側も苦労のし甲斐があったことでしょう。

耳の痛い話は最高の宝──特養のデジタル化推進

石本:続いて、伊藤浩一さんにお話しいただきます。先ほど内田さんが触れられた「介護職員の働きやすい職場環境づくり」の内閣総理大臣表彰に選ばれた特別養護老人ホーム「もくせい」施設長としてデジタル化を推進しました。内閣総理大臣表彰は全国 2 事業者だけに与えられた栄誉です。

伊藤:私たちは稼働率 99%を目標としていますが、水戸市内に新規施設が続々とオープンした数年前、どんどん稼働率が下がってしまいました。私はこのまま下がり続けるんじゃないか、うちの強みを作らなければと考え、離床センサー「眠り SCAN(スキャン)」を全床導入しました。ところが、稼働率はさらに落ちてしまいます。そんな失敗が取り組みのきっかけになりました。

なぜ稼働率が落ち続けたのか。私が眠りSCANを導入した目的と、現場の職員がこれをどう活用するか、というところがずれていました。両者の課題が噛み合っていなかったんです。
私の課題は稼働率を上げることでした。でも職員たちはベッドからの転落を防ぐために眠りSCANを活用していました。といっても眠り SCANは離床センサーなので、起きたらベルが鳴りますが、それだけでは転落は防げない。課題解決にならないのに、ただ入れてしまった。導入することは手段なのに、目的になっていた、という失敗でした。

改革の3本柱──ブランディング・組織再構築・業務の定量化

こんな失敗を繰り返さないために、「全社戦略型ブランディング」「組織の再構築」「業務の定量化」に取り組みました。

全社戦略型ブランディングというのは、全社員が一丸となって、夢や志――そもそも何がしたくてこの仕事をしているんだっけ、という部分――を明確にする、ということです。そういったことを、アンケートを取るなどしてみんなで作っていきました。

もう1つ、日本の人口動態を徹底的に解説しました。これから人口減少が深刻化して、今が最も人が多い状況なんだ、という現実を認識してもらうのです。

次は「組織の再構築」。まず、課題の見える化に取り組みました。課題って、言い換えれば職員の愚痴だと思います。愚痴を見える化するわけですね。ここでも全員にアンケートを取って、問題点を徹底的に洗い出しました。その結果、耳の痛い話がいくつも出てきました。私はこれを最高の宝だと思ったんです。これこそが再構築の “種” になっていくからです。

アンケートでは「夜勤が大変だ、つらい」という声が多く上がりました。そこで初めて、現場が大変だと思っていることを管理部門も課題と認識したのです。次はこの課題をどう解決していくか、となります。そのために組織編成を見直し、若い人を中心に「眠りSCANチーム」を立ち上げました。

そして業務の定量化のため、タイムスタディを実施しました。巡視も排泄介助も体位変換も、何分やったかを明らかにしたわけです。その結果、夜勤では巡視とベッド上での排泄介助に時間がかかっていることがわかりました。職員の感覚ではなく、客観的に抽出したのです。

夜勤で時間のかかる業務が明確になり、そこで眠り SCANチームの登場です。眠り SCANの利用により呼吸数と心拍数がモニターに表示されるので、チームは訪室での巡視を減らせるのでは、と提案します。反対意見もありましたが、基準を決めてモニター巡視に切り替えることになりました。

結果的に、巡視と排泄介助の時間を、4フロア合計で117分減らすことができたのです。夜勤のうち約2時間、生み出せたんですね。そして眠りSCANのデータを解析すると、訪室巡視をやめてモニター巡視に切り替えた方は、明らかによく眠れるようになった。入居者にとっても、眠りの質が向上したわけです。

このステップを昼の業務にも応用して、時間を捻出できるようになると、休みをとれるようになります。男性の育休取得や外国人の帰省が可能になったのです。そうすると現場のモチベーションは上がります。アンケートで「いいケアを提供できている」は、取り組み前の 50% から、取り組みの後、90%に激増しました。結果、強みが明確になって稼働率も上がり、「もくせい」の年間稼働率は2025年度、99.5%で落ち着く見込みです。

全員を一度に変えない──改革を進める現実的アプローチ

石本:プロジェクトに後ろ向きな職員もいたと思いますが、どう巻き込んだのでしょう。

伊藤:俗にいう 2:6:2 の法則ってあるでしょう。20%が積極的、60%が中間で、残り20%が消極的っていう。消極的な人がいて当たり前で、そういう人をやみくもに否定しないようにしました。

そして、経過や成果を外部の大会で発表させたんです。今回の取り組みも、若い職員がチームを作って全国老施協の大会で発表しました。意識的に若い人に登壇してもらうのは、そうしないと、施設長やベテラン勢が勝手にやってる、となるに決まってるからです。若い人を主役にして、彼ら彼女らに経営の話をしてもらうわけです。そうすると、周りも協力してくれます。

最終的に、消極的な20%も態度を変えます。消極的な人って変わりたくないわけですけど、現状維持バイアスはあって当たり前。まずは 2:6:2 の「6」を巻き込んで、消極的な「2」を「1」に減らして、という具合に、少しずつ変えていくイメージです。消極的な「2」を置いてきぼりにしないよう、気を配りました。

石本:改革はグイグイ進めてしまいがちですが、そうじゃなく徐々に広げていき、気づいたら組織が生まれ変わっていた。とても優れた手法ですね。

「良いケア」とは何か──利用者がハッピーかどうかを数値化できるか

石本:さて、ここからは4人でディスカッションしましょう。内田さん、田尻さん・伊藤さんのお話を聞かれていかがでしたか。

内田:勉強になったし、もっと聞きたい部分もたくさんありました。田尻さんのお話で、デジタル機器導入の目的を「利用者との会話を増やせる、サ責との情報共有がスムーズになる」など、利用者のために仕事をしている職員さん目線の表現をされたということが、とても大事だと思いました。また、導入時のご苦労話も、「もう手放せない」と変化していったエピソードは、推進する立場にあった者としても嬉しく思いました。

伊藤さんのお話にあった「何がしたくてこの仕事をしてるのか」。これも重要だし、そう言える環境を作れる施設長ってかっこいい。愚痴を見える化し、それを宝であり業務改善の種と受け止める覚悟も然りです。

眠りSCANの実践は、私が言いたいことと重なります。新しいツールが入ることによってケアの方法や質が変わっていく。でも本質的な、利用者のためというコアな部分は変わらないと、よくわかりました。

石本:よく「介護の質」といわれ、「介護の見える化」「介護のエビデンス」「科学的介護」という言葉もしょっちゅう聞きます。これらは一体何なのか。利用者がハッピーになったかどうかは数値化できません。でも、伊藤さんのお話にあった、センサーのデータ解析から眠りの質向上が証明されたところは、それが目に見える形で示されたと思いました。
そのほかにも、可視化できるとか、科学的根拠が得られるとか、よりよいケアにつながる可能性のある手法などはありますか。

伊藤:いくつかの大学が「笑い」を研究しています。笑いを測定して効果を検証したり、AIで計測したりして分析するもので、面白いですね。将来、それがケアにも応用されるようになるかもしれません。食事もそうですよね。食べた量や食事の内容は定量化できる領域だと思います。

田尻:在宅では、定量化はこれからの課題だと思います。今はヘルパーが「なんかいつもと違う」と気づいたことを多職種につないで対処しています。あまりはっきりした根拠がないことであっても、それが重大な発見につながるケースもあります。

それでも、これから作り上げる必要はあります。そのときは客観的な根拠が不可欠ですが、それにはデジタルを使ってデータを集めないといけません。そういった意味でもデジタル化は大切なことだと思います。

うちの事業所では、ケアプランの短期目標はできるだけ数量化して、達成が明確に分かるようにしています。例えば「利用者と一緒に掃除する」だったら、「ヘルパーと一緒に30分掃除する」と設定します。訪問したヘルパーが30分できたかどうか、今日は体調が悪いと言われたので15分ぐらいしかできなかったとか、そういった記録をしっかり残していくわけです。

内田:定量化はとても大事ですし、意識的に実施していく必要があるでしょう。じゃあ何をやるのか。睡眠、食事、排泄は、量や状態を客観的にとらえることができ、健康管理の観点で定量化できると思います。

日常生活でも、たとえばテレビの同じチャンネルしか見ていないか、いろんなチャンネルを見ているか。これは健康管理や ADL の評価基準の一部になりえるかもしれません。

石本:ずっと同じチャンネルを見ている場合、リモコン操作ができないから、という可能性もある。巧緻性(指先を動かす能力)の問題なのか意欲の問題なのか、見極めるわけですね。

内田:ええ。その状態になった理由を明確にし、対応していく。QOL も含めて定量化は科学的介護につながっていくでしょう。根拠ある数値がデータ化され、それをいかに解釈するかが求められていくと思います。

石本:定量化が質の判断とどう結びつくのか、ある程度定まってきたときに、良いケアの基準も見えてくる。そうなればベテランも新人も、資格があってもなくても、外国の方でも、適切なケアを短時間で的確に身につけられそうです。

今までは属人性が強かったというか、この人だからできる介護テクニック、みたいなものに依拠してきた側面もありました。これからはそれが通用しなくなっていくので、ケア技術の見える化には大きな可能性があるんじゃないでしょうか。

そのための人材育成も重要ですし、施設と在宅、それぞれの特性に合わせる必要もあります。私は介護福祉士がそれをリードする役割を担っていくべきじゃないか、と思うところです。
本日は現場の実践から将来の課題まで、有意義なお話をありがとうございました。

■取材機関概要

●日本介護福祉士会

住 所:東京都文京区後楽 1-1-13 小野水道橋ビル5階

URL:https://www.jaccw.or.jp/

●熊本託麻台リハビリテーション病院

住 所:熊本県熊本市中央区帯山 8-2-1

URL:https://horio-kai.or.jp/

●全国ホームヘルパー協議会

住 所:東京都千代田区霞が関 3-3-2(全国社会福祉協議会地域福祉部内)

URL:https://www.homehelper-japan.com/

●特別養護老人ホームもくせい

住 所:茨城県水戸市東原 3-2-7

URL:https://hokuyoukai.jp/mokusei-ex/

制作:一般社団法人地域共生社会研究会

統一コード:ETD2626E02

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