演者からのメッセージ (講演抄録)

上部消化管癌における周術期管理 ―短期成績の改善から中長期的QOLを考慮して―

北里大学医学部 上部消化管外科学 講師 
新原 正大

食道癌に対する集学的治療の成績向上を目指したシンバイオティクスによる腸内環境制御

大阪急性期・総合医療センター 消化器外科 主任部長 
本告 正明

Clinical practice guidelines for esophagogastric junction cancer: Upper GI Oncology Summit 2023

慶應義塾大学医学部 外科学(一般・消化器) 助教 
松田 諭

進行胃癌に対する低侵襲手術 ~Imagine the future~

大分大学グローカル感染症研究センター 教授/大分大学医学部消化器・小児外科 
衛藤 剛

胃癌・食道癌に対するロボット支援手術の最前線 ―適切な手術のコンセプトとロボットを使いこなす技術の重要性―

藤田医科大学医学部 総合消化器外科学 主任教授 
須田 康一

胃癌・食道胃接合部癌に対するロボット支援下噴門側胃切除術とmSOFY再建

日本赤十字社和歌山医療センター 消化器外科 部長 
山下 好人

上部消化管癌における周術期管理 ―短期成績の改善から中長期的QOLを考慮して―

北里大学医学部 上部消化管外科学 講師
新原 正大

 本邦におけるNCDデータから食道癌外科治療における術後合併症の発生率は、全体で約40%と報告されており、その内訳としてnon-surgical complicationでは肺炎が最も高い。低侵襲とされる胸腔鏡下手術の導入以降、呼吸器関連合併症の減少に寄与するという報告もあるが、これまで大規模な臨床試験では示されておらず、依然として肺炎は術後在院死亡の主要な原因の1つとなっている。術後肺炎の予防の取り組みとして、口腔ケアが一定の効果があるとされており、本邦では2014年より周術期口腔機能管理後手術加算が算定されている。当院における食道癌外科治療における多職種チーム医療の一環として、歯科医師・歯科衛生士による口腔ケアを実施しており、一定の効果を上げている。歯周病の進行度評価により重症例や、Plaque Control Recordを用いた評価において改善を認めない症例では、有意に術後肺炎が多いことなどが示されており、術後肺炎の予防にはこれらの介入が極めて重要であると考えている。
 食道癌外科治療後の中長期的なQOLの報告は限定的である。倦怠感に関しては、診断時や治療期間のみではなく、長期生存後においても30%以上の症例で感じていると報告されている。また、中長期的なQOLに関する調査でも2年経過しても術前の基準に戻らなかったと報告されている。その原因は多岐にわたると思われるが、ダンピング症状や食後の血糖変動などもその一因と考えている。最近では、非侵襲的持続血糖測定器(Continuous Glucose Monitoring:CGM)を用いて胃癌外科治療後の血糖変動を把握する研究がなされ、食後の血糖変動のみではなく、測定が困難であった夜間就寝時の血糖変動などの詳細が把握できるようになってきている。当院では食道癌外科治療後においてもCGMを用いて血糖の推移を測定してきたので、その知見を中心に提示する。

食道癌に対する集学的治療の成績向上を目指したシンバイオティクスによる腸内環境制御

大阪急性期・総合医療センター 消化器外科 主任部長
本告 正明

 進行食道癌に対する標準治療は術前DCF(Doc+CDDP+5FU)療法後の手術である。治療成績向上のためには術後合併症の軽減と化学療法の有害事象軽減やコンプライアンス上昇が必要である。手術や化学療法により腸内環境は乱れ、感染性合併症につながる。我々の行ってきた食道癌集学的治療におけるシンバイオティクスを用いた腸内環境制御の有用性について報告する。
【周術期】
 食道癌にて食道亜全摘・胃管再建術施行症例において周術期のシンバイオティクス投与は処方整腸剤と比較して、腸内細菌叢や短鎖脂肪酸濃度を維持し、感染性合併症が減少する傾向であること、SIRS期間が有意に短縮することを示した(Surgery, 2012)。また、術前の便中短鎖脂肪酸濃度低値は術後感染性合併症の独立した危険因子であることを示した(BMC Gastroenterol, 2020)。
【術前化学療法】
 食道癌にて術前DCF療法施行症例を対象とした。単施設でのRCTで化学療法中のシンバイオティクスは処方整腸剤と比較して、腸内細菌叢や短鎖脂肪酸濃度を維持し、発熱性好中球減少症、下痢を有意に軽減することを示した(Clin Nutr, 2017)。さらに、多施設共同RCTにて化学療法中のシンバイオティクス+経腸栄養剤は予防的抗生剤と比較して、短鎖脂肪酸濃度を維持し、発熱性好中球減少症が軽減する傾向であること、好中球減少と下痢を有意に軽減すること、Relative Dose Intensityを有意に高く維持することを示した(Clin Nutr, 2022)。

 食道癌集学的治療におけるシンバイオティクスは短鎖脂肪酸濃度を維持し、治療成績の向上に寄与する可能性がある。

Clinical practice guidelines for esophagogastric junction cancer: Upper GI Oncology Summit 2023

慶應義塾大学医学部 外科学(一般・消化器) 助教
松田 諭

食道胃接合部癌に対する集学的治療開発が進んでいるが、推奨される治療は施設や国によって多様である。食道胃接合部癌治療に関するClinical question(CQ)を抽出し、国際共通指針をClinical practice guidelinesとして発刊することを目的とし、2023年6月に開催された第15回国際胃癌学会において、Upper GI Oncology Summitが開催された。外科、内視鏡科、内科領域において、各国より計49名のExpert panel member(EPM)が選定され、2021年より各領域におけるCQ立案を開始した。最終的に、外科/内視鏡科/内科、それぞれ4/3/3個のCQについて検討を行った。EPMとは独立したSystematic review team(SR)が結成され、各CQにおいてエビデンスの評価を行った。本ガイドラインはMinds診療ガイドライン作成マニュアルに沿って作成され、SR結果にもとづき推奨文ならびにエビデンスレベルを定めた。合意形成にはGRADE grid法を採用し、2023年1月にEPMがWEBによる事前投票を行った。10個のCQのうち7個において、事前に設定した70%以上の合意率が達成された。その後、合意形成に至らなかったCQについて改訂を加え、Upper GI Oncology Summit当日に、現地にて本投票を行った。本投票において合意率70%に達しなかった3個のCQについては、後日WEBにて最終投票を行い、推奨度を決定した。本ガイドラインは、食道胃接合部癌に対する各領域の標準治療確立の一助となると考えらえる一方で、手術や内視鏡の術式詳細や、化学療法のレジメン選択においては、地域や施設による差が大きく、さらなる治療開発が期待される。

(CQ一覧)
Surgery CQ1:Is the dissection of mediastinal and suprapancreatic lymph node stations required for EGJ cancers with 2-4 cm esophageal invasion?
Surgery CQ2:Is it recommended to dissect the same lymph node region of EGJ squamous cell carcinoma and EGJ adenocarcinoma?
Surgery CQ3:Is minimally invasive surgery recommended for EGJ cancer when a transthoracic approach is indicated?
Surgery CQ4:Is surgical resection recommended for gastroesophageal junction cancer with oligo metastasis?
Endoscopy CQ1:Is WLE alone recommended for the detection of superficial neoplasia (cancer/HGD) at the GEJZ as compared to WLE combined with image-enhanced endoscopy?
Endoscopy CQ2:Is WLE useful to determine the extent of superficial neoplasia (cancer/HGD) at the GEJZ?
Endoscopy CQ3:What are the criterion for curative resection of neoplasia at the GEJZ?
Medical Oncology CQ1:Is it recommended to adopt chemotherapy for gastric adenocarcinoma to esophageal adenocarcinoma and esophagogastric junction cancer?
Medical Oncology CQ2:What is the optimal perioperative treatment for resectable, locally advanced esophagogastric junction cancer?
Medical Oncology CQ3:What biomarkers are recommended to be tested before first-line for unresectable case?

* EGJ, esophagogastric junction; WLE, white light endoscopy; HGD, high grade dysplasia; GEJZ, gastroesophageal junction zone; IEE, Image Enhancement Endoscopy; CPS, combined positive score; MSI, microsatellite instability.

進行胃癌に対する低侵襲手術 ~Imagine the future~

大分大学グローカル感染症研究センター 教授 / 大分大学医学部消化器・小児外科
衛藤 剛

 進行胃癌に対する腹腔鏡下手術が高難度である理由として、腫瘍や転移リンパ節によりワーキングスペースが狭いこと、血管や剥離層の同定が難しいこと、組織が脆弱で取り回しが難しいことが挙げられる。JLSSG0901試験の結果より腹腔鏡下手術が進行胃癌に対する標準治療のひとつとなったが、本試験は腹腔鏡下手術に熟練した外科医(内視鏡外科学会技術認定取得医)によって手術が行われた結果であること、また対象では年齢80以上の高齢者、BMI30以上の肥満症例、胃全摘術が必要となるような大型3型、4型胃癌、術前化学療法施行症例、他臓器浸潤症例は除外されている。日常診療ではこれらのlimitationにも留意しながら治療方針を決定していく必要がある。
 低侵襲手術としてのロボット支援手術は保険収載、増点を追い風に拡大の一途である一方、その利点に対するエビデンスの蓄積が待たれる。現時点での日常診療においては、すべてのリソースをロボット手術に費やすことはできないことから、今後も進行胃癌に対する腹腔鏡下手術の技術継承、教育は必須と考え、またロボット手術との相乗効果による安全性の追求が可能と考える。
 外科医の経験的知識である暗黙知は合併症の回避に深く関わっており、腹腔鏡手術、ロボット手術といったモダリティに関わらず、安全な手術遂行のためにはチーム内での暗黙知ランドマークの情報共有が重要と考える。

胃癌・食道癌に対するロボット支援手術の最前線 ―適切な手術のコンセプトとロボットを使いこなす技術の重要性―

藤田医科大学医学部 総合消化器外科学 主任教授
須田 康一

当科では,2009年に全国に先駆けてda Vinci™ S HD Surgical System (Intuitive Surgical) を導入し,胃癌,食道癌に対するロボット支援手術を開始した.当初は,エネルギーデバイスの止血力不足やロボットアーム・鉗子の干渉に悩まされ,しばしば手術が滞ることもあったが,double bipolar法やda Vinci軸理論,画面四分割理論を考案してこれらの困難を領域横断的に克服し,手技とセットアップの標準化を行った.胃領域では,outermost layer-oriented approachに代表される「適切な手術のコンセプト」と,上記の「ロボットを使い熟す技術」を両立することで,術後合併症を軽減し,生存率を改善できる可能性を示し,2018年の消化器外科ロボット支援手術保険収載や2022年のロボット支援胃切除診療報酬増点の根拠とされた.本セッションでは,食道領域へのoutermost layer-oriented approachの応用,hinotori™サージカルロボットシステム (Medicaroid) 開発の経緯と今後の展望,da Vinci SPサージカルシステム (Intuitive Surgical) の適切なセットアップと導入期の短期成績について概説する.

胃癌・食道胃接合部癌に対するロボット支援下噴門側胃切除術とmSOFY再建

日本赤十字社和歌山医療センター 消化器外科 部長
山下 好人

 胃上部の早期胃癌ではリンパ節郭清の観点から胃全摘の必要はなく、噴門側胃切除術(PG)が標準術式となっている。また、近年、増加傾向にある食道胃接合部癌においても、下部食道切除を伴うPGが標準治療となっている。術後の生活の質(QOL)においてPGで胃を残す意義は大きいと考えられるが、食道残胃吻合で術後の逆流性食道炎や吻合部狭窄を起こしてしまうと逆にQOLを大きく低下させてしまうことになる。このようなことからPG後の食道残胃吻合再建では様々な逆流防止の工夫が報告されているが、いまだ標準術式とされる再建法はない。腹腔鏡下やロボット支援下で行うにあたり手技的にも簡便であることも重要である。
 我々は2014年に逆流防止機構を備え、腹腔鏡下でも比較的簡便に行える食道残胃吻合法としてSide overlap with fundoplication by Yamashita(SOFY)法を考案し、2017年に報告した。その後、より安定した治療成績を得るために、いくつかの点で改良を加え、modified SOFY(mSOFY)法として現在に至っている。また、食道胃接合部癌手術で経裂孔的に再建する場合、狭い術野での高位吻合となるため手術難度はかなり高くなるが、mSOFY再建はこのような症例にも応用可能である。
 最近では多くの施設でこのmSOFY再建が施行されるようになってきたが、その中にはやってみたがうまく行かなかったという意見も散見される。mSOFY再建における逆流防止機構はブタの胃や臓器モデルを用いて検証済みであり、正しいmSOFY再建を行えば良い治療結果が得られると考えている。
 今回はロボット支援下での術野展開、リンパ節郭清、mSOFY再建における重要ポイントについてビデオを供覧しながら解説する。

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