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輸液の基礎知識

(監修) 日本医科大学腎臓内科名誉教授 飯野靖彦先生

輸液の目的

輸液の目的には「水・電解質の補給」「栄養の補給」「血管の確保」「病態の治療」などがあります。中でも最も重要なのは「水・電解質の補給」すなわち、体液を正常な状態に保つことです。その次に「栄養の補給」を考えます。長期間食事が取れない場合は、水・電解質のほかに、糖質、タンパク質、脂質、ビタミンなどの栄養素をバランスよく投与しなければなりません。

そのほか、大量に出血してショックを起こしている人や、血管が細い場合などでは、いざ薬剤を投与しようとしても注射針が血管に入らないことがあるため、あらかじめ輸液で血管を確保しておきます。肝性脳症など特殊な病態の治療にも用いられます。

水・電解質の補給:「水・電解質平衡の維持」「循環動態の維持」「酸・塩基平衡の維持」栄養の補給:「エネルギー源」「からだの構成成分」血管の確保:「薬剤投与ルートの確保」病態の治療:「肝性脳症など特殊な病態の治療」

からだの恒常性

私たちは、水を飲んだり食事などから水分や電解質を摂取していますが、ほぼ同じ量を体外に排せつして体内のバランスをとっています。このように、からだの水分量や電解質の濃度を常に一定に維持することを「からだの恒常性(ホメオスターシス)」と呼び、健康維持には不可欠です。

何らかの原因でこの恒常性が崩れた場合、輸液により体液の異常を是正することは治療の基本といえます。輸液により体液異常が是正されると、病態の治療効果が高まり、回復も短縮されます。

からだに占める体液の割合

私たちのからだの約60%は水分であり、残りの40%がタンパク質、脂質、無機質などの固形成分から構成されています。このからだの中の水分を「体液」と呼びます。

体液量の割合は、年齢、性別、脂肪量などにより変化します。一般に小児では水分量が多く、体重の70~80%を占めていますが、高齢者や皮下脂肪の多い女性ではその割合が約50%と少なくなっています。

からだの構成比についてのグラフ。体液量の小児・成人・高齢者での差についての図解

体液区分とその役割

体液は、細胞膜を介して「細胞内液」と「細胞外液」に大別されます。さらに、「細胞外液」は毛細血管壁を介して「組織間液」と「血漿(けっしょう)」に分けられます。体液は、細胞内液に40%、組織間液に15%、血漿に5%分布しています(%は体重に占める割合です)。

細胞内液が細胞外液の2倍あることは重要な意味をもっています。すなわち、細胞外液(循環血液量)が減少した時にも、細胞内液が細胞外に移動して補うリザーバーとしての役割を果たしています。細胞内液はエネルギー産生やタンパク合成など、代謝反応に関係しています。

細胞外液は循環血液量を維持し、栄養素や酸素を細胞へ運搬したり、老廃物や炭酸ガスを細胞外に運び出す役割を果たしています。

  • 体液区分の図解
  • 体液の電解質組成の図解

体液の電解質組成

細胞内液には、カリウム(K+)やリン酸(HPO42-)イオンが多く、細胞外液ではナトリウム(Na+)やクロール(Cl-)イオンが主な電解質です。体液の電解質組成が細胞の内と外で著しく異なるのは、細胞を包んでいる細胞膜が電解質の移動を制御しているためです。細胞膜は水は自由に通しますが、電解質などほとんどの物質の出入りを制御しています。

また毛細血管壁は、水・電解質・アミノ酸のような低分子物質は自由に通しますが、血漿タンパク(アルブミンなど)のような高分子物質は通しません。このため、タンパク質が血管内に留まり、この血漿タンパクにより血管内に水分が保持されます。

電解質の細胞外液・細胞内液の表。細胞外液に多い電解質、細胞内液に多い電解質の図解

電解質の役割

電解質それぞれの役割と血清電解質量についての表

ナトリウム(Na)とその働き

ナトリウムは、約55%が細胞外液中に存在し、体液浸透圧の調節および細胞外液量の維持に最も重要な働きをしている電解質です。血漿浸透圧の約90%はナトリウムの影響を受けており、ナトリウムの濃度に応じて細胞外液量を変化させます。このため水とナトリウムを切り離して考えることはできません。ナトリウムが失われると水も一緒に失われます。

通常、私たちは1日5~15g程度の食塩(NaCl)を摂取して、過剰の塩分を尿中に排せつします。しかし、食事ができない人に必要な食塩量は1日量として約4~6g(Na+として60~100mEq)に設定されています。

ナトリウムの体内分布表

カリウム(K)とその働き

カリウムは、細胞内の主要電解質であり、神経や筋肉の興奮・伝達・収縮などに重要な働きをしています。カリウムは、約90%が細胞内液に存在し、細胞外液中には約2%しか存在しません。このため、血清カリウム値だけから体内のカリウム値を推測することはできません。

カリウムは1日に約40mEq(カリウム重量で約1600mg)必要で、これはKClとしては3gに相当します。

カリウムの体内分布表

浸透圧とは

例えば、濃度の異なる水を半透膜で隔てると、水は半透膜を自由に移動しますが電解質は通さないため、濃度の低い方から濃度の高い方に水が移動します。この水を引っ張る力を浸透圧といいます。

浸透圧とは

浸透圧による水の移動

細胞内液と細胞外液の濃度が同じ場合は、細胞内外で水分の移動はありません。ところが、細胞外液の濃度が細胞内液よりも低いと水分が細胞内に入り、細胞が膨張します。逆に、細胞外液の濃度が細胞内液よりも高いと、細胞内の水分が出て行くので、細胞は縮んでしまいます。

水は浸透圧の低い方から高い方へ移動する

等張液・低張液・高張液

体液(血漿)の浸透圧は「285±5 mOsm/L ミリオスモル 」に保持されています。これとほぼ等しい浸透圧をもつ液を等張液といい、これより低い浸透圧の液を低張液、高い浸透圧の液を高張液と呼びます。

輸液もこの3種類に分類され、体液と輸液の浸透圧差によって水(輸液)は体内に分布します。主に等張液と高張液が使われますが、これは低張液を投与すると、赤血球が溶血を起こすためです。

低張電解質輸液は低張液と混同されやすいのですが、浸透圧は体液とほぼ同じ等張液です。電解質(NaCl)濃度が生理食塩液より低張であるため、低張な分をブドウ糖によって等張にしています。

低張電解質輸液の詳細については「水・電解質輸液」ページへ

血漿の浸透圧に対する等張液・低張液・高張液の考え方と例。

浸透圧が高くなると水を飲む

浸透圧は、体液の維持に重要な役割を果たしています。発汗などでからだから水分が失われると、体液の浸透圧が上昇して抗利尿ホルモン(尿の量を減らすことで、体の浸透圧がさらに高くならないようにするホルモン)の分泌が刺激されます。このため腎臓での水の再吸収が亢進し、体内の水分が保持されます。また、のどが渇くため、私たちは水を飲みます。抗利尿ホルモンの分泌増加と同時にのどが渇くことによって水の摂取量と排せつ量のバランスをとって浸透圧を調節します。

逆に、水やビールなどをたくさん飲みすぎると、容量負荷(水負荷)とアルコールの直接作用によって抗利尿ホルモンの分泌が抑制され、尿を多く出して体液量を調節します。

なめくじと塩

なめくじに塩をかけると小さくなるのも、浸透圧のしわざです。これは、なめくじのからだ(細胞内)の水が膜を通して塩濃度の高い体外へ移動したために起こったものです。

輸液の基礎Q&A

年齢による体液区分の違いはありますか。
体重に占める水分量は新生児や乳児で多く、高齢者や皮下脂肪の多い女性では少なくなります。筋肉の比率の少ない幼児や高齢者は細胞外液の比率が高くなります。
溶血とはなんですか。
蒸留水のような低張液を投与すると、細胞膜を通して水が血球の中に入って血球が膨らみ、最終的に膜が破裂してしまいます。この現象を溶血と呼びます。
年齢による退役区分の差を示す表。