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革新的なメディカルフーズの開発を目指して
“どこにもない新しい濃厚流動食品の開発”

流動食が胃から逆流することによって引き起こされる誤嚥(ごえん)性肺炎や、下痢などの合併症をどうしたら防げるか。こうした医療の課題に向き合い、これまでにない画期的な新製品によって解決したい。そんなチャレンジから生まれたのが、使用時には液体で、胃の中でゲル状に物性が変化する濃厚流動食品です。

開発に携わったメディカルフーズ研究所の研究員たちが、発想の原点から幾多の試練とチャレンジ、それらを培った土壌について全てを語ります。

モノづくりのヒントは医療の場からやってきました

OS-1事業部 メディカルフーズ研究所 MF製剤研究室 主任研究員 水貝和也

当社が開発した新しい濃厚流動食品は、食物繊維としてペクチンを使用した製品で、通常は液体ですがpHの低下によって液体からゲル状に流動性が変化するという特徴があります。簡単に言えば、胃酸の影響によって胃の中で液体から固体に変化するのです。なぜ、こうしたものが必要とされるのでしょうか。液体のままでは胃から逆流したり、逆に胃から腸へ速く移動してお腹が緩くなったりする可能性があります。使用するときには液状で飲みやすく、胃の中でゲル化すれば、そうしたリスクを減らせると考えられるからです。

このため、2000年前半には、液体の濃厚流動食品にペクチンや寒天などを混ぜてあらかじめ固めておくといった対策が医療機関で行われていました。その後、半固形状の濃厚流動食品として各社より、さまざまな製品が発売されました。当社は市販製品では唯一、寒天で固めた半固形状の製品を2007年に発売し、医療機関からの評価を得ていました。その一方で、効果を得るために高粘度に設計している半固形状の濃厚流動食品に、固くて使用しづらいため改善してほしいといった声が上がっていることも知りました。

液体のまま使用でき、胃の中で自然に固まるものが作れないかと悩んでいたとき、決定的なヒントとなる出来事が起こりました。それは当社の液状の濃厚流動食品にペクチンを混ぜても固まらないという苦情でした。試してみると、確かにペクチンを混ぜてもさらさらした液体のままです。ところが、それを人工胃液に入れるとゼリー状に固まるではありませんか。その瞬間、これまでにない画期的な新製品が生まれると確信しました。

ペクチンは食物繊維の一種で、さまざまな種類のペクチンがあります。一般的にはジャムなどに使用されており、pH※1やカルシウムに反応してゲル化し、熱に弱いという性質があります。製造時の殺菌(熱)に耐えられるペクチンを見つければ製剤化への道が開けると考え素材を探索し、ある一つのペクチンを見つけました。また、ペクチンを混ぜても固まらない濃厚流動食品が、なぜ人工胃液に触れるとゲル化するのか、という理由も分かってきました。

ちょうどそのころ、次世代の製品を開発するためのプロジェクトを栄養研究室と製剤研究室のスタッフで立ち上げ、この発想を基にした新しい濃厚流動食品の開発に取り組むこととなり、その製剤化で豊富な経験を持つ、製剤研究室の同僚である遠藤へ製剤検討をバトンリレーすることになりました。本当は、それからが長くて苦しい大変な道のりになってしまったのですが、彼を中心とした製剤研究室のメンバーが執念深く取り組んでくれたおかげで革新的な製品を世の中に出すことができたのです。

  1. ※1 pH:水素イオン濃度指数(酸性度やアルカリ性度を判別する基準)

アイデアを完成させるまで諦めませんでした

OS-1事業部 メディカルフーズ研究所 MF製剤研究室 主任研究員 遠藤直之

新製品の製剤検討を引き継いだ段階で、次にやるべきことは明らかでした。濃厚流動食品は、たんぱく質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラルなどが入った液剤です。そこにペクチンを加えると、たんぱく質が凝集し沈殿したり、油脂の分離が顕著になることが、水貝からの情報や過去の経験から分かっていました。濃厚流動食品は基本的に栄養成分を均一にしておかなければならないので、この問題さえ解決すれば製剤はうまくいくはずでした。

そこでまず濃厚流動食品で一般的に使われる成分の中で、品質の安定に寄与すると考えられるものを次々に試しました。十分な結果が得られなかったので、対象を広げ、食品素材や食品添加物を対象に徹底的なスクリーニングを繰り返したところ、うまく成分を均一化できるものがようやく見つかりました。

これで8割方は成功だと思ったのですが、残念ながら試作品は、何もしないのに数日経つとゲル化してしまいました。原因は、胃酸と混ざってゲル化する仕掛けが、保管中に早々と発現することでした。改善にはどんな素材を加えれば良いかということは分かっていましたが、それによって濃厚流動食品としての栄養バランスが崩れてしまうことは避けなければなりません。

ここで諦めるわけにはいかない。それからは延々と、苦しい試行錯誤の日々が続いたのです。改良によって、ゲル化せず安定した状態が数日から数週間に、さらに数カ月へと少しずつ伸びて行きました。製剤検討のバトンを引き継いでから、最終的に目標とする賞味期限9カ月の実現に目途が付くまで、結局、何年もかかってしまいました。こんな長期にわたるチャレンジを許してくれた会社に感謝しています。

新しい機能性の発見にチャレンジしています

OS-1事業部 メディカルフーズ研究所 MF栄養研究室 主任研究員 日野和夫

私が所属するMF栄養研究室は、製品の生理作用を考察し、それを実験で確かめています。この製品が製剤担当の水貝や遠藤が検証したように、人工胃液の入ったビーカーの中で固まることは分かっていました。そこで私たちはまず最初に、投与した製品が実際に動物の胃の中でゲル化することを確認しました。次の段階として、製品が胃の中でゲル化することがどのような生理作用につながるのか、それを検証しなければなりません。この製品は胃からの逆流や下痢といった液体物投与に伴う合併症のリスクを減らすことはできるのか?ということを実証するものです。非臨床実験の結果、私たちは新しい濃厚流動食品が一般的なものと比べて逆流しにくいこと、お腹が緩くなりにくいことを確認しました。

こうした手順を踏んで、想定される製品のデータを蓄積するとともに、長期間投与した場合の安全性や栄養効果にも問題がないことを確認していきました。医薬品であれば製造販売前に臨床試験を行って、患者さんでの効果を確認する必要がありますが、食品ではそうしたプロセスがありません。私たちの提供するデータは、医療の場で製品を実際に使っていただくための説明材料となる重要な情報なのです。

ですから私たちの取り組みは製品発売後もずっと続きます。例えばこの濃厚流動食品に含まれている食物繊維やコラーゲン加水分解物の生理作用は非常に興味深いテーマです。私たちは、患者さんや医療従事者からのご意見やデータを集め、部門や上下関係を越えてアイデアや疑問点を自由にディスカッションし、製品が持つ新たな機能性を見い出していきます。そうしたチャレンジによって製品価値をさらに高めることも私たちの大切な仕事です。

メディカルフーズの第2の柱へと成長しています

OS-1事業部 マーケティング部 摂食・嚥下関連担当・濃厚流動食担当 PMM 岡田達明

私は、2006年から摂食嚥下(えんげ)領域を担当するPMM(プロダクト・マーケティング・マネジャー)として着任し、2009年より濃厚流動食品も担当、この新しい濃厚流動食品のプロモーションに関わっています。

さて、ここまでの話で、MF製剤研究室の水貝が着想し遠藤が具現化したものを、MF栄養研究室の日野を中心とするメンバーが実験で検証したところまではご理解いただけたと思います。いよいよ製品の上市スケジュールを確定するタイミングがやってきました。目標は2014年2月。毎年この時期には臨床栄養に関する大きな学会が予定されています。まだ世の中に存在しない、唯一無二のコンセプトを持つと確信する製品が、学会で注目されることは間違いないでしょう。私たちは何としても上市時期を死守しなければならない。それからは研究部門がギリギリまで調整を続け、ついにこの新しい濃厚流動食品は予定通りデビューすることができました。

なぜこれほどまでに当社が、この新しい濃厚流動食品の導入にこだわったのか。それは患者さんや医療従事者の皆さんが必要としているから、というだけでなく、メディカルフーズの領域で新しい価値を提供できると確信したからです。私たちが所属するOS-1事業部の名称にもなっている経口補水液の「オーエスワン(OS-1)」は、メディカルフーズ事業における第1の柱です。事業を持続的に成長させていくためには第2、第3の柱が必要であり、開拓し尽くされたレッドオーシャン市場といわれる領域でも、画期的な機能を持った製品が創造できることを研究部門の力により証明しました。難しい組成をクリアして合併症の解決につながる機能や栄養面での評価は高いですし、新たな機能性などへの期待も膨らんでいます。こうしてこの新しい濃厚流動食品は第2の柱へと着実に成長しています。

そして、今、第3の柱に育てたい嚥下機能に着目した製品として注力しているのが、えん下困難者用食品「エンゲリード」と、丸のみから咀嚼(そしゃく)・嚥下のために考えられた咀嚼開始食品「プロセスリード」に続く新たな製品です。これらは患者さんの「食べる」に着目した新発想・新カテゴリーの製品なので、その考え方やメリットについて医療や介護の場などでもっともっと認知を広げなければならない段階ですが、超高齢社会の中で着実に貢献していく製品だと確信しています。

「脱水・低栄養・嚥下機能の低下」が相まって入院につながることも多いため、私たちは地域医療を担う一員として、モノを売るだけではなく、これらの課題を解決する手段を提供していく必要があります。輸液をはじめさまざまな製品を通して医療の場と密接な関係にある当社だからこそ、これからはメディカルフーズの領域でも幅広くお役に立っていきたいと考えています。

(所属部署、役職名は取材当時のものです)